旅部 Public Comment
月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅部也
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DATE: 2006/05/04(木)   CATEGORY: 未分類
オザワ
4ヶ月振りに訪れたカビ臭い家の食堂のテーブルの上には、あの時のままの形でトランプが鎮座していた。

真冬のある週末。
その日はちょうどウエダの誕生日だった。

我々旅部は誕生日を祝う為、週末を利用して我が家の別荘に向かった。
東京から3時間ほどの、山の麓の古い小さな家。
午後に出発したので着いたのは夕方になっていた。
我々よりも年上の家電に囲まれた現実感も生活感もないこの家で、クラゲ達は鍋を囲み、酒を呑んで、仲間の誕生日を祝った。

次の日、去り際ウエダは、我々がここで過ごした事を標すかのごとく、前夜に買い出しに行ったコンビニで買ったトランプを儀式の様に食堂のテーブルの真ん中に静かに置いた。
それを見届けて我々は別荘を後にした。
葉巻の煙にまみれた前夜が遠い昔の様に感じた。

時は過ぎ、厳しい冬が終わりを告げ、筍を掘るには格好の季節。
世の中が大型連休に沸くこの時期に、私は再びこの家にやってきた。
眩しい太陽と新緑の山道を通り抜け、駐車場に車を停める。
石段を降りて、鍵を開けて家に入ると、どこか懐かしい様ないつもの黴の臭い。

そして、テーブルの上にはトランプ。

何も乗っていないテーブルの真ん中で、黙ってただひたすらに存在を主張していた。
トランプが視界に入ると、ふと不思議な感覚に襲われた。

「あら、こんな所に誰がトランプ置いたのかしら」
訝る母の声が遥か遠くに聞こえる。
私はひとり、重い冬の空の下、駐車場に降り立ったあの日に戻っていた。

黴の臭い。
黒い煙を吹くストーブ。
布団の臭い。
洋鍋で作るキムチ鍋。
化膿したヘソ。
偶然見付けた温泉。
凍えるような寒さ。
モリタが買ってきてくれた葉巻。
チンザノ。
…。
あの旅で起きた様々な出来事の記憶が、面白いように蘇る。
紛れもなく、そのトランプは我々が旅をした証だった。

「あ、それ、冬に来た時置いてったヤツだわ。」
我に返り、慌てて答える。
どこにでも売っている何の変哲もないトランプが、私にとってとても象徴的な物に思えた。

帰る時にはまた、テーブルの上にトランプを置いて行こうと思う。

いつかまた、ここに旅部が集合する事を願って。
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